魚体のサイズが30cmを超えてくると、氷締めでは不十分に思えてくる瞬間があります。
船宿まで徒歩15分ほどですが、真鯛や太刀魚船になると1日釣行ですので正しく「魚を〆る」作業をしていないと美味しくいただくことができなくなります。
先日、タイラバ船で約900gの真鯛を持ち帰りました。
このときは、初めてだというのもあっていつものバチコンと同じく氷締めにして持ち帰りました。
魚肉のところどころに血走った個所が見当たりました。
ちょっと気になります。
天候は小雨で気温もそれほど高くはなかったので氷締めだけでもそれなりに美味しくいただくことができましたが、この先、夏場になっても安定して美味しくいただくためには正しい「魚を〆る」作業が必要だと考えてこの記事にまとめました。
魚を〆る
水産卸売り市場でもやっている一般的な「魚を〆る」手順は以下の通りです。
ピック or ナイフ スポンジマット
ピックやナイフなど先が尖った器具で魚の脳を刺し脳死状態にします。
これにより魚は生命活動を停止し暴れるのを防ぎます。
この生命活動が停止した状態から魚のうまみ成分に変貌していきます。
このとき、魚の生命エネルギーが高ければ高いほど、その魚は美味しくなっていくということになりますので、釣った直後の元気な状態で脳締めするのがベストです。
脳天締めをする際はスポンジマットの上で作業すれば魚が暴れにくく魚体に傷がつきません。
ATPの減少を防ぐ
脳締めが決まると魚の口がぽかんと開きます。
ハサミ or ナイフ
魚のエラを切ってその奥を流れる動脈から血を抜きます。魚のサイズが大きい場合はエラだけでなく尾のところも切って血を抜きます。
血液の腐敗を防ぎ鮮度を保つ
魚体の体温が急上昇しますので同時に冷やしこみをするのが重要です。
神経締め用ワイヤー スポンジマット
脳締めをすれば神経組織もやがて停止しますが、自然に神経組織が停止するまでに、誤った信号が神経を伝達して痙攣したり筋肉を硬直させたりしてしまうため、神経組織を停止させる行為が神経締めです。細いワイヤーを使って脊髄を破壊します。スポンジマットの上で作業すれば魚が暴れても魚体に傷がつきません。
死後硬直⇒熟成⇒腐敗の過程を遅らせる
すぐに食べるのであれば神経締めはあまり重要ではありません。
氷 海水 クーラーボックス or 容器 水汲みバッカン
魚を氷や保冷剤で冷やし込むことによって、海水内などにいる微生物の活動を抑えるためと、内臓内にある消化酵素によって自己消化しないように酵素の活性を抑えるためです。効率よく冷やしこむには海水と氷をいれ十分に冷やした状態の中に血抜きまたは神経締めが終わった魚体をいれます。淡水魚を冷やしこむ場合は海水の代わりに真水を使用します。
微生物や酵素の活動を停止または鈍らせ腐敗する速度を遅らせる
温度の上昇を抑えるのが目的です。肉厚な魚体は体内まで冷やしこむには非常に時間を要します。
海水魚には真水ではなく必ず海水を使用します。
お店などであれば魚が商品としての価値が落ちないよう劣化しないような対策や見た目も重要です。冷やしすぎは死後硬直を早めますし、冷やさなければ腐敗が進みます。氷や保冷剤を魚に直接あてると氷やけしてしまいます。また、海水魚の場合は、海水ではなく真水に魚をいれると身がふやけてしまいます。
十分に冷やしこみができた魚体は、魚体を緩衝材などで包みこんで氷または保冷剤を適切にいれたクーラーボックスなどの保冷ボックスの中にいれて梱包します。冷やしこみで使用した海水を排水して、氷や保冷剤に直接触れないように耐質紙や新聞紙などで仕切ると確実です。
冷やしこんだ魚体が冷えすぎず暖まらないようベストな環境を維持して持ち帰ります。
見た目を気にする必要がなければ氷または保冷剤と魚だけ入れれば問題ありません。
商品としてとかお祝い事とかでなければ重要なのは保冷です。
持ち帰るには移動性、携帯性、機動性が重要なので海水は捨てます。
魚を〆る工程のうち、脳天締め+血抜きを活け締めまたは活き締めといいます。
活け締めにより、瞬殺することで自己消化反応によるATP値減少を抑え、死後硬直を遅らす効果があります。
鮮度を保つには、死後硬直後を遅らし、IMPのピークを維持することです。
- 脳の位置がわからない人向け動画
-
脳締めで一番重要なのは脳を傷つけ破壊することです。
そのためには、脳の位置が正確にわかっていないとただ魚体に傷をつけているだけの行為になってしまいます。
次の動画が非常にわかりやすいのでご覧ください。 - お祝いに使われる真鯛を〆る
-
お祝いに使うことの多い真鯛です。
その場合は、刃をいれるすなわち魚体に傷をつける側面を右側面(向かって右に頭)にすれば、盛り付けの向きと逆ので隠せます。それ以外にもそもそも傷をつけないような〆方もあります。
次の動画は、実家の近くの京都西舞鶴の船長さん直伝の〆方です。
縁起物の真鯛ですので見た目も重要です。脳締めと神経締めを同時に行っています。丹後舞鶴|タイラバ(鯛ラバ)|イカメタル(鉛スッテ)|TOPS JAPAN 丹後舞鶴でタイラバ(鯛ラバ)、イカメタル(鉛スッテ)をする釣り船(遊漁船)です。 - 血抜きのテクニック
-
どの箇所の血管を切断するのか?
神経締めの前に血液を抜かないと血液が循環しないので意味がないという解説です。
心臓のポンプ機能を利用して血を抜くため切断箇所は血が出ればどこでもいいわけではないようです。
Youtubeに多くの動画がアップされているので参考にしてください。
個人的におススメと思われる動画だけを厳選して紹介しています。
いろいろ実際に試してみて自分なりのベストな方法で美味しくいただければと思います。
便利なアイテム紹介
魚を〆るために便利なアイテムの紹介です。
ダイワ 活〆スティック
大物にも対応したピックとして使用できます。I字、T字に変形して使用可能です。
ハピソン 計測マルチハサミ YQ-880
脳締め用ピック、エラ切りハサミなどの機能があるのであとはスポンジマットとワイヤーがあればすべての工程が可能です。津本式では、特別なノズルを使用して水圧で神経を抜くのでワイヤーの販売はありません。
「津本式」といわれる「究極の血抜き」を実現できる手法です。ここではブログの紹介だけにしておきます。
ササメ針 ヤイバ魚絞めマルチシザース YSC-1
SASAMEのヤイバ製品のマルチシザースシリーズです。
YSC-1 | ヤイバ魚絞めマルチシザース(縦189mm×横87mm×厚さ13mm) |
YSC-3 | ヤイバ魚絞めマルチシザース ミニ(縦120mm×横68mm×厚さ9mm) |
YSC-4 | ヤイバ魚絞めマルチシザース ミディアム(縦162mm×横82mm×厚さ10m) |
YSC-5 | ヤイバ 魚絞めメガシザース(縦 215mm×横 110mm×厚さ 10mm 重さ 170g) |
吉見製作所 神経絞め 鮮度たもつ君
形状記憶合金専門メーカーの吉見製作所の「神経絞め 鮮度たもつ君」シリーズが一部市場卸業者が使用していて有名です。鮮度たもつ君シリーズ以外にもテーパー形状のワイヤーも販売しているので太さや長さのオーダーが可能です。
チタンとニッケルの合金なので耐食性に優れています。真鯛には線径0.8mm~1.0mmくらいがおすすめでアジだと線径0.6mm~0.8mmです。線径0.8mmがおススメです。
ルミカ 神経締め
ルミカからニードルとワイヤー機能がセットになった何種類かのワイヤー長さが異なる商品が販売されています。
アジのサイズであればショート、真鯛になるとサイズによりますがミディアム(60cm)かロング(80cm)が必要です。
ニードルは中心が空洞になっているのでエア抜きにも使用できます。
ベルモント 活締めマット
脳締め・血抜き・神経締めなどの作業を効率良く行うためのスポンジマットです。
ソフトプレン ウレタンスポンジ
QuickDry Foamというのを10リットル(厚み4cm x 幅22cm × 長さ56.5cm 個数2枚)注文しました。
ダイワ ライトトランクα GU3200の内寸に合わせてカットしてもらいました。
10ℓ以上の注文になるので厚みを4cmにして2枚にしています。
考察
現在は、脳締め⇒血抜き⇒冷やしこみ⇒水抜き⇒保冷して持ち帰りを考えています。
「ハピソン 計測マルチハサミ YQ-880」だけあればよかったようです。
神経締めのために購入した神経締めキットやウレタンマットはとりあえず出番なしです。
ウレタンマットはクーラーボックス内の仕切り板代わりに使ってもよいかなぁと考えています。
冷やしこみおよび保冷用に購入したハードクーラーボックスの実力が楽しみです。
生鮮度を表すK値
イノシン酸 ( 旨味成分 ) とヒポキサンチンの割合が鮮度の低下を表す指標Kです。
K(%)=(HxR十Hx)/(ATP十ADP十AMP+IMP十HxR十Hx)X100
- K値が小さいほど鮮度が良好
- 魚種によってK値の上昇度合いが異なる
- 白身魚(鯛やヒラメなど)は上昇が小さい傾向にある
- 青魚(マグロやサバやアジなど)は上昇が大きい傾向にある
「タラの沖汁」,「 サバの生腐れ」、「腐ってもタイ」
- アデノシン三リン酸【ATP】
- アデノシン二リン酸【ADP】
- アデノシン一リン酸【AMP】
- イノシン一リン酸【IMP】
- イノシン【HxR】
- ヒポキサンチン【Hx】
ATPは、生きている間は呼吸によって再生され一定レベルの数値を保ちます。
死ぬと呼吸をしないので呼吸による再生が停止するため、細胞内の成分を消化することになります。
これが「自己消化反応」です。
この自己消化反応を遅らすために行うのが「活け締め」です。
死後硬直後に一方通行の自己消化反応が進みます。
酵素の活動により分解が進みIMPのピークを迎えます。
風味や品質を向上させることを「熟成」といいます。いずれIMPのピークを過ぎるとIMPが消失します。さらに酵素によって分解が進み人にとって有害な物質が作られ「腐敗」といわれる状態になります。腐敗はK値の数値が80%以上といわれています。
「活け締め」によって、自己消化反応を遅らせることで鮮度を維持します。
神経締めは、脳が死んだ後も脊髄がATPを消化するのを抑える効果があり長時間の鮮度保持のための方法とされています。市場から食卓に並ぶまで時間がかかる場合に神経締めが行われる傾向にあるため、釣ってきた魚を捌いて食べるなら神経締めはさほど重要ではありません。
旨味を維持するには旨味物質であるIMPを制御することです。
IMPの変化を制御するには、IMPの減少を抑えることすなわちIMPが分解されるのを抑えることで制御可能であると考えられます。IMPの分解を抑止する方法には、加熱する、煮干しにする、塩漬けにする、冷凍にするなど様々です。魚のIMPの分解を抑止するには、筋肉中の分解酵素を何らかの方法で失活させることです。
もっとも一般的な方法が過熱です。加熱以外には冷凍や低温冷蔵も一つの方法です。
低温冷蔵の場合は、5℃以下が好ましいようです。
ただし注意が必要なのは生息していた場所の温度の影響がある点です。
旨味を維持するためにも冷やしこみは重要な工程です。
食中毒を防止するためには、微生物による分解を抑止することが重要で、その方法は加熱はもとより低温冷蔵も活動を遅らせる効果があります。低温冷蔵の場合は、保存期間が短くなるので注意が必要です。
魚体にすでにいた微生物以外には、汚染による微生物の増殖があります。
ここでいう汚染とは、すでに微生物が増殖した媒体に魚体が接触することを意味しています。
包丁やまな板など調理器具由来のもの、お皿や器などなどいろいろと考えられます。
殺菌には過熱が一番ですが、加熱でも死滅しない類もいますので注意が必要です。
微生物が活発に活動することによって腐敗が早まります。
魚体に生息していた寄生虫を一緒に食べてしまうことで胃や腸に痛みを生じる食中毒を発症します。
寄生虫でもっとも有名なのが「アニサキス」です。
アニサキスが寄生する魚介類は特定されています。
アニサキスは加熱処理で死滅します。
アニサキスに限らずほとんどの寄生虫は内臓に寄生しています。
魚体が死んで体内温度が上昇すると寄生虫が活発に移動して内臓から移動します。
内臓を生で食する方はいないと思いますが、加熱すれば問題はありません。
内臓をなるべく早く取り除くことで寄生虫による食中毒を回避できます。
「腸炎ビブリオ」は加熱して食べれば全く問題ありませんし、真水でよく洗うことで回避できます。
冷やしこみで魚体温度を確実に低温に維持することが重要です。
注意が必要なのは、船上などで常温の状態で放置しているとIMPのピークが超過してIMP消失して旨味云々どころではなく、微生物や寄生虫が活発になり腐敗が始まっている可能性があります。
常温の状態とは、クーラーボックスに保冷剤や氷をいれているだけの状態はクーラーボックス内はひんやりしていても魚体および体内の温度は常温と変わりません。
冷やすには、海水をいれて魚体を浸す必要があります。
炎天下の冷やしこみには、保冷力の高いクーラーボックスに適量の保冷剤またはブロック氷に海水が必要になります。氷や保冷剤は表面積が広いほど早く冷やすことができ、体積が大きいほど持続時間が長くなります。
例えばブロック氷とアイス氷を比べた場合、同じ1Kgでもブロック氷は長持ちするかわりに冷やしこむのに時間を要し、アイス氷は長持ちしませんがそのかわり冷えるまでが早いです。
早く冷やしたい場合はブロック氷をピックなどで砕いて使用すると早く冷えます。